孤立した合川町増沢地区

森吉町米内沢 近藤 博(五十四歳)


 秋田市に勤めていた私は前年に父を亡くし、休日にはなるべく実家に帰るようにしていた。その日も秋大生のいとこと、車で米内沢に帰る予定でした。いつもなら二八五号線で帰るのですが、長雨と当日の豪雨で土砂崩れを心配した私は七号線を行くことにしたのでした。能代までは順調に北上、しかし、市内はすでに中川原地区の氾濫で七号線が通 行止め、農道や私道を使い、迷いながら迂回しやっとの思いで二ッ井方面 に抜けました。すっかり日も暮れ、急いで合川町方面に向かった。麻生地区を過ぎ峠を下りきった道路が冠水しているのに気づかなかった私は、水の中に突っ込んでしまったのです。幸いエンジンが止まらず自力で脱出でき命拾いをしました。ブレーキがきかなくなった車をローギアだけで走らせ、どうにか増沢地区を通 過、村はずれの橋まで着いたのです。
 しかし、増水で橋が通行止め、増沢地区に閉じこめられてしまいました。途方にくれた私は車で一夜を明かすしかないと考え、民家で電話を借り実家に連絡を取りました。この時訪ねた先が叔父の奥さんの実家で、泊めてもらえることになったのです。この家のお父さん、お母さんは、私たちに食事と寝床を用意してくださり、今でも感謝しております。床についてもなかなか眠れず、そのうちドスンドスンと、家に何かがぶつかる音がするので、外を覗いてみると、流木が家に当たっている音でした。この家のお父さんは、これ以上水が増えることはないから安心して寝るようにと話してくれましたが、不安を感じた私は、お父さんの止めるのも聞かず、いとこと二人で一階の運べるものをできるだけ二階へ移動しました。
 結局、床上二十センチの浸水がありました。この地で何十年も暮らしてきたお年寄りにも、予想もつかない大洪水だということを思い知らされました。夜が明け水も徐々に引き午後になり、丸一日がかりでやっと実家にたどり着きました。



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