米代川水系河川整備基本方針
平成14年 4月   国土交通省河川局

1.河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
(1)流域及び河川の概要
 米代(よねしろ)川は、その源を秋田県、青森県及び岩手県の3県境に位 置する中岳(なかだけ)(標高1,024m)に発し、一旦、岩手県を南下した後、その向きを西に変えて秋田県に入り、大湯(おおゆ)川等の支川を合わせながら、大館(おおだて)盆地を貫流し、二ツ井(ふたつい)町付近で阿仁(あに)川及び藤琴(ふじこと)川等の支川を合わせ、能代(のしろ)市において日本海に注ぐ、幹川流路延長136 km、流域面積4,100km2の一級河川である。
 米代川流域は、やや不規則な5角形の形状を呈し、秋田県、青森県及び岩手県の3県にまたがっている。その流域は秋田県北部のほぼ全域を占めており、この地域における社会、経済、文化の基盤をなすとともに、自然環境に恵まれ、人々に多くの恵みを与えており、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。
 秋田県と青森県にまたがる白神山地は、世界最大級の規模でブナの原生林が分布しており、手つかずの貴重な自然の宝庫として、平成5年に世界遺産として登録されている。また、流域には、日本三大美林の秋田杉が広く分布しており、かつて舟運により全国各地に木材が供給されていた。
 源流から花輪(はなわ)盆地に至る上流部は奥羽山脈の渓谷を清流となって下っており、沿川には河岸段丘が発達している。また、ブナ、アオモリトドマツ、コナラ群落がみられるほか、カジカ、ヤマメ、エゾイワナなどが生息している。
 中流部の大館市十二所(じゅうにしょ)から二ッ井にかけては、狭窄部を介して東西に細長く広がる大館、鷹巣(たかのす)の各盆地のほぼ中央を流れ、連続した瀬と淵及び中洲が存在し、秋にはアユの産卵する姿が随所で見られるほか、河川敷内で湧水しているワンドにはトミヨが営巣する箇所も見られる。河畔にはオニグルミ・ヤナギ類の高木群落を主体とする植生で河畔林が形成され、ササゴイなどのサギ類やジネズミ、キツネ等が生息し、自然豊かな河川環境となっている。
 能代平野が広がる下流部は、河床勾配が緩く、川幅も広くなりおだやかな流れとなっている。高水敷には、ヤナギ類の高木群落やオギ群落等が分布し、サギ類やオシドリ、キツネ等が生息している。また、水際には抽水植物のコウホネが群落を形成しているほか、河口にはハマヒルガオなどの砂丘植生が見られる。
 魚類については、数多くの生息が確認されており、大館盆地から河口までは魚類の遡上の妨げとなる工作物がなく河川の連続性が確保されているため、春から初夏にかけて多くのシロウオ、アユ、サクラマスの遡上や、降海型イトヨなどが観られ米代川の河川環境を象徴している。
 米代川沿川では、古文書などの記録で確認できるだけでも、藩政時代から幾度となく、大規模な洪水被害に見舞われてきている。
 米代川水系の治水事業については、昭和7年8月及び昭和10年8月の大洪水を契機として、昭和11年から直轄事業として着手し、二ツ井における計画高水流量 を5,200m3/sとして、二ツ井町切石(きりいし)地先から下流26kmの区間を対象に改修工事が行われた。その内容としては、築堤及び河道掘削並びに築堤に伴う樋門の新設が主なものであった。
 その後、昭和22年8月及び昭和26年7月に計画高水流量を上まわる大出水が発生したことから、昭和23年に改修対象区域を大館市まで延長するとともに、昭和29年に二ツ井における計画高水流量 を6,000m3/sに改定した。
 この計画に基づき、堤防、捷水路、水門、河口部の導流堤の施工が行われてきた。また、昭和47年7月には戦後最大規模の大洪水が発生し、その被害は、家屋の全・半壊及び床上・床下浸水約11,000戸、耕地被害約8,300haに及ぶ未曾有の大災害となった。この洪水を契機とし、また、河川流域内の開発状況にかんがみ、昭和48年に基準地点二ツ井において基本高水のピーク流量 を9,200m3/sとし、これを流域内の洪水調節施設により1,000m3/s調節し、計画高水流量 を8,200m3/sとする計画を決定した。その後の主な治水事業としては、築堤、河道掘削、内水対策等の事業を実施し、最近では、環境に配慮した多自然型川づくりなども行っている。
 米代川流域に暮らす人々や施設に大きな被害を生じさせた地震は、天長7年 (830年)の出羽地震を始めとして、有史以来20回余りが記録されている。このうち、昭和58年5月26日に発生した日本海中部地震(M7.7)では、秋田県内において大規模な津波も発生し83名の尊い命が奪われた。また、米代川堤防も河口部から約10km区間内の旧河川跡や湿地跡等を中心に液状化現象が発生し大きな被害が生じるとともに、津波の遡上に伴い護岸等が被災した。
 また、米代川の河口が位置する日本海上の「秋田県西部・山形県西北部」は、地震予知連絡会により昭和53年に特定観測地域として指定されている。
 河川水の利用については、農業用水としては、約15,100haに及ぶ耕地のかんがいに利用され、水力発電としては、明治30年に建設された銚子第一発電所をはじめとする22箇所の発電所により、総最大出力74,400kWの発電が行われている。水道用水としては、昭和32年に給水を開始した能代市を始めとし3市4町で取水されているほか、工業用水としては、火力発電所等で利用されている。
 米代川水系の水質については、本支川のすべての環境基準点においてBOD75%値が基準値を満足している。
 河川の利用状況については、水面上でのヨット・カヌー、河川敷での野球、サッカー、グランドゴルフ等のスポーツ・レクリエーションや、アユ釣り大会など自然豊かな河川環境を活かしたイベントの場としての河川利用が盛んである。また、秋には収穫の歓びを分かち合う「なべっこ」などの伝統的な行事や、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が蝦夷(えぞ)との戦いの際に灯りをかざして敵をおびき寄せた名残を受ける鯱(しゃち)流しなど歴史豊かな行事の場として利用されている。

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(2)河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
 米代川水系では、洪水から貴重な生命・財産を守り、地域が安心して暮らせるように社会基盤の整備を図ると同時に、農業用水や都市用水等を安定供給し、天然アユや豊かな河畔林に代表されるうるおいと安らぎの水辺を有する自然豊かな環境を保全・継承するため、関係機関や地域住民と共通 の認識を持ち、連携を強化しながら治水・利水・環境に関わる施策を総合的に展開する。
 このような考えのもとに、河川工事・河川工作物及び砂防・治山工事の現状、水害発生及び河川利用の状況(水産資源の保護及び漁業を含む。)、並びに河川環境の保全・復元を考慮し、また、関連地域の社会経済情勢との調和や環境基本計画等との調整を図り、かつ、土地改良事業等の関連する事業及び既存の水利施設等の機能の維持を十分配慮して、水源から河口まで一貫した計画のもとに、段階的な整備を進めるに当たっての目標を明確にして、河川の総合的な保全と利用を図る。
 災害の発生の防止又は軽減に関しては、沿川地域を洪水から防御するために、流域内の洪水調節施設により調節を行うとともに、米代川の豊かな河畔林や、魚類の産卵場などの河川環境に配慮しながら堤防の新設、拡築及び河道掘削により河積を増大し、護岸等を施工して、計画規模の洪水を安全に流下させる。また、各河川沿岸の低地地域において内水対策を実施する。さらに、地震防災を図るため、堤防強化及び津波対策等を講ずる。
 また、計画規模を上回る洪水や整備途上段階で施設能力以上の洪水が発生した場合においても、できるだけ被害を軽減できるよう必要に応じ堤防強化等を実施する。
 さらに、洪水予報・水防警報の充実、情報伝達及び警戒避難体制の整備を行う。
 また、ハザードマップ作成の支援、防災訓練への住民参加等により災害時のみならず平常時から防災意識の向上を図るとともに、水防活動との連携、土地利用計画との調整、住まい方の工夫等の対策を関係機関や地域住民等と連携して推進する。
 また、支川及び本川上流区間については、本支川及び上下流間バランスを考慮し、水系として一貫した河川整備を行う。    河川水の利用に関しては、農業用水及び都市用水の安定供給を確保するため、水資源の開発と合理的な利用の促進を図るとともに、流水の正常な機能を維持するため必要な流量 を確保するよう努める。さらに、渇水等の被害を最小限に抑えるため、渇水等の発生時における情報提供、情報伝達体制の整備及び広域的かつ合理的な視野に立った水利使用者相互間の水融通 の円滑化などを関係機関及び水利使用者等と連携して推進する。
 河川環境の整備と保全に関しては、世界遺産の白神山地に代表される米代川流域の良好な自然環境と河川景観を、流域の人々のかけがえのない財産として次世代に引き継げるよう保全・復元に努める。特に、天然アユを始めとする多様な動植物が生息・生育する良好な河川環境の整備と保全を図るため、多自然型川づくりを推進する。
 また、沿川の自治体が立案する地域計画との連携・調整を図りつつ、河川利用に関する多様なニーズを踏まえ、伝統行事・祭等の活力あるふるさとづくりに資する整備や、秋田杉の筏流しや鉱石等の運搬で栄えた舟運の歴史文化の継承・醸成にも配慮した流域交流の場などの整備に努める。
 さらに、米代川流域の健全な水循環系の構築に向けて、良好な水量 ・水質を確保するため、流域の水利用の合理化、森林の保全、下水道整備等を関係機関と連携を図り、流域全体で一体となって取り組んでいく。
 河川の維持管理に関しては、災害の発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全の観点から河川の有する多面 的機能を十分に発揮できるよう地域住民や関係機関と連携しながら適切に行う。また、米代川水系には豊富な自然が残されており、環境に関する情報を適切に収集、モニタリングし、維持管理に反映させる。なお、かつての鉱山開発による水質への影響については、今後も継続して監視していく。
 米代川は、魚影が濃く、また、釣り場ポイントも多いことから、全国各地から釣り愛好家が訪れる河川であり、河道内の堆積土砂、河畔林及び瀬・淵などを適宜モニタリングし、魚類の生息環境の維持に努める。
 また、洪水時や震災時における河川巡視の強化及び迅速な河川情報の収集・提供に努める。
 樋門、排水機場等の河川管理施設の管理に当たっては操作の確実性を確保しつつ、高度化、効率化を図るとともに、常にその機能が発揮できるように巡視・点検及び補修を行い、良好な状態に維持する。
 さらに、人と河川との豊かなふれあいの場の形成を図るため、河川清掃や河川愛護活動などを通 じて地域住民が河川管理に参画できる体制を構築し、地域住民と行政が連携した河川管理を推進する。

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2.河川の整備の基本となるべき事項
(1)基本高水並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項
 基本高水は、昭和33年7月、昭和47年7月、平成10年6月洪水等の既往洪水について検討した結果 、そのピーク流量を基準地点二ツ井において9,200m3/sとし、このうち流域内の洪水調節施設により1,000m3/sを調節して河道への配分流量 を8,200m3/sとする。

■基本高水のピーク流量等一覧表  
河川名
基準地点
基本高水の
ピーク流量
(m3/s)
洪水調節施設に
よる調節流量
(m3/s)
河道への
配分流量
(m3/s)
米代川
二ツ井
9,200
1,000
8,200

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(2)主要な地点における計画高水流量 に関する事項
 計画高水流量は、鷹巣において5,400m3/sとし、阿仁川及び藤琴川等の支川をあわせて二ツ井において8,200m3/sとする。その下流では河口まで同流量 とする。

(3)主要な地点における計画高水位 及び計画横断形に係る川幅に関する事項
 本水系の主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る概ねの川幅は、次表のとおりとする。

■要な地点における計画高水位及び川幅一覧表
河川名
地点名
河口からの 距離(km)
計画高水位(T.P.m)
川幅 ( m )
米代川
鷹 巣
46.4
28.05
370
二ツ井
29.4
17.63
270
注)T.P.:東京湾中等潮位

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(4)主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量 に関する事項
 二ツ井地点から下流における既得水利としては、農業用水として約3.8m3/s、水道用水として約0.3m3/s、工業用水として約0.1m3/sの合計約4.2m3/sの許可水利がある。
 これに対して二ツ井地点における過去30年間(昭和45年〜平成11年)の平均渇水流量 は52.3m3/s、平均低水流量は90.2m3/sである。
 二ツ井地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量は、利水の現況、動植物の保護・漁業、流水の清潔の保持、観光・景観等を考慮し概ね45m3/sとする。
 なお、二ツ井地点下流の水利使用の変更に伴い、当該流量は増減するものである。

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〒016-0121 秋田県能代市鰄渕字一本柳97-1
電話番号/0185-70-1001(代表)
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