流域及び河川の概要
流域及び河川の概要
1-(1)流域及び河川の概要 |
子吉川(こよしがわ)は、秋田県南部の日本海側に位置し、その源を秋田・山形県境の鳥海山(ちょうかいさん)(標高2,236 m)に発し、笹子川(じねごがわ)、鮎川(あゆかわ)等の支川を合わせて本荘(ほんじょう)平野を貫流し、本荘市において石沢川(いしざわかわ)、芋川(いもかわ)を合わせて日本海に注ぐ、幹川流路延長61km、流域面積1,190 km2の一級河川である。
その流域は、本荘市をはじめとする1市10町からなり、流域の土地利用は、山地等が約88%、水田や畑地等の農地が約11%、宅地等の市街地が約1%となっている。流域内には、秋田県西南部の本荘・由利(ゆり)地方の中心都市である本荘市が存在し、この地域における社会・経済・文化の基盤を成すとともに、子吉川の豊かな自然環境に恵まれていることから、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。
子吉川流域は、東の出羽(でわ)丘陵と南の丁岳(ひのとだけ)山地に囲まれ、 流域の南側には昭和38年に指定された鳥海国定公園がある。河床勾配は、下流部の汽水域では約1/6,500と緩勾配であるが、その上流の山間部までは1/1,000~1/100と急勾配となっており、特に裾野にかけては滝や渓流など豊かな自然環境が形成されている。一方、沿川には、JR羽越本線、由利高原鉄道、国道7号、105号、107号、108号等の基幹交通施設に加え、日本海沿岸東北自動車道が整備中であり、交通の要衝となっている。
流域のほとんどが、新第三紀層の泥岩、緑色凝灰岩類で、流域の南に位置する鳥海火山地帯は、新期安山岩を主体とした火山噴出物から成っている。
子吉川は、鳥海山から鳥海高原、河岸段丘地帯を流下し、海岸沿いには沖積層・洪積層の平野が形成されている。冬期における積雪寒冷を特徴とする日本海性の気候で、流域内の平均年間降水量は約1,800~2,200mm、山岳部では約2,400~3,600mmと多い。
源流付近の自然豊かな鳥海山、中腹にはブナの原生林等が分布し、法体の滝(ほったいのたき)は秋田県の名勝第一号に指定されている。
山間部を流下する上流部は、水際部にミズナラ等が分布している。
由利町(ゆりまち)付近から河岸段丘地帯を流下する中流部では、ヤナギやヨシの群落が繁茂しコモチマンネングサ等も確認され、ヨシ原は、オオヨシキリの高密度繁殖地となっている。陸域には、樹林性のモリアオガエル、トウホクサンショウウオなど多種多様な生物が確認されている。上中流の水域には、渓流では主にイワナ、ヤマメなどが、やや勾配が緩くなり瀬と淵が連続した区間では、アユ、サケ、サクラマスなどの産卵場がある。
本荘平野を流下する下流部は、本荘市街地が形成されている。川幅はやや広くなり流れも緩やかである。水際には、ヤナギ低木群落が繁茂している。また、河口部では、シロヨモギなど砂丘植物やエゾウキヤガラなどの塩性植物が多く生育している。 河口部一帯は、カルガモの集団越冬地が形成されている。汽水域は、シロウオの産卵場となっており、春には伝統漁法であるシロウオの持ち網漁が行われ、子吉川の風物詩となっている。
現在漁港として利用されている本荘港は、藩政時代には“古雪港(ふるゆきみなと)”と呼ばれ、北前船の寄港として栄え、由利地方の門戸を成していた。藩政時代から「本荘米」のブランドが定着していた米や木材を古雪港から積み、西廻り航路で大阪に航海した船は、代わりに塩や雑貨などを運んできた。子吉川は運びこまれた物資を川舟によって上流に配送し、同時にこの地方の主産物である、米や木材などを港まで運ぶ役割を果たしており、この地方の物資輸送の大動脈となっていた。
子吉川は、河岸段丘が発達した地帯から平野部において蛇行が著しく、この遷移部から本荘市街地にかけて、洪水の発生しやすい地形となっている。これまで、たびたび氾濫や破堤が繰り返し発生し、甚大な洪水被害を受けてきた。段丘は7つの河岸段丘で形成されており、主に集落は中高位の段丘に、低位の段丘は農地として土地利用が成されている。
子吉川の本格的な治水事業としては、昭和4年に旧河川法施行河川の認定をうけ、昭和8年から15年まで秋田県により、由利橋から明法及び支川石沢川の築堤、河道掘削など本格的な治水対策が始まった。この改修計画では、計画高水流量をとどろきばし二十六木橋地点で1,800m3/sとした。その後、昭和22年7月、昭和30年6月、昭和44年7月の洪水等を契機に、昭和46年4月に直轄事業として改修事業に着手し、二十六木橋地点の計画高水流量1,800m3/sを踏襲した。
しかし、昭和47年7月に計画高水流量を上回る洪水が発生し、破堤6ヶ所を含む大災害を受け、さらに昭和50年8月、昭和56年8月、昭和59年9月と相次ぐ出水や流域の社会的、経済的発展に鑑み、昭和62年8月に基準地点二十六木橋において基本高水のピーク流量を3,100m3/sとし、これを上流ダム群により800m3/s調節して、計画高水流量を2,300m3/sとする計画とした。この計画に基づき現在までに、無堤部の築堤及び護岸の工事、排水機場の整備等を実施した。
近年においても、昭和62年8月、平成2年6月、平成9年7月と相次いで洪水が発生し、平成10年8月には芋川を中心とする洪水が発生し、芋川合流点下流の本川では河川災害復旧等関連緊急事業により築堤・河道掘削を実施するなどの治水対策を実施した。
河川水の利用については、子吉川水系の河川水に水源を依存し農業用水を確保して水田を潤してきた。子吉川では、現在、 農業用水として約6,200haの農地のかんがいに利用されており、子吉川水系に水源を依存する農業用水の取水施設は約280件に及んでいる。また、水力発電として7施設の発電施設により、最大出力48,400kwの電力供給が行われており、上水道としては本荘市、由利町等で利用されている。なお、渇水による水不足を補うため溜め池等により対処してきたが、たびたび発生する水不足に悩まされている。
水質については、河口からJR羽越本線橋まではB類型、それより上流がA類型及びAA類型で、高度経済成長期から昭和50年代の半ばまでの間、環境基準値を超えていたが、生活排水対策などの水質改善により現在では環境基準値を十分に満足しており、BODは0.5~1.4㎎/Lと東北地方の一級河川の中でも水質が良く、清冽で良好な水質を維持している。
河川の利用については、本荘市は「ボートのまち」として親しまれるなど子吉川の河川空間を利用したレクリエーションが幅広く行われている。特に、本荘市の「ボートプラザ・アクアパル」を中心に公認ボートコースにもなっており、「本荘市民ボート大会」をはじめ花火大会等、水面及び河川利用の拠点となっている。
子吉川流域においては、「子吉川市民会議」をはじめとする市民団体が、豊かな自然環境を次世代に保全・継承するため、河川愛護の啓発活動や環境学習等様々な活動を展開している。
さらに、河川の持つ癒し効果を沿川の市民や医療・福祉にも活用した“癒しの川づくり”を実践しており、心身を癒す新しい川づくりとその利用がなされている。